感謝の習慣、挫折しないための「ハードル下げ」戦略:完璧を目指さない継続法
感謝の習慣を継続することの難しさ
感謝の習慣は、私たちの幸福感や人間関係に良い影響をもたらすことが知られています。しかし、いざ始めてみると、「毎日続けるのが難しい」「忙しいと忘れてしまう」「完璧にやろうとして挫折する」といった壁に直面することも少なくありません。特に、真面目な方ほど「きちんとやらなければ」と考えすぎてしまい、かえってその重荷が継続の妨げになることがあります。
この記事では、「完璧を目指さない」という視点から、感謝の習慣を無理なく、そして継続的に続けるための具体的な「ハードル下げ」戦略をご紹介します。感謝を義務ではなく、生活の中に自然に取り入れるためのヒントが見つかるはずです。
なぜ「完璧主義」が感謝習慣の壁になるのか
感謝の習慣を始めようとするとき、「毎日寝る前に3つ感謝することを見つけて日記に書こう」「一つ一つの感謝について深く考察しよう」など、具体的な目標を設定することが推奨される場合があります。これは効果的なアプローチですが、時に「完璧にこなせない自分はダメだ」という自己否定につながったり、プレッシャーになったりすることがあります。
習慣化の初期段階では、行動そのもののハードルをいかに下げるかが鍵となります。あまりに高い目標を設定すると、一度でも達成できなかった場合にモチベーションが大きく低下し、そのまま習慣が途切れてしまうリスクが高まります。心理学でいう「オール・オア・ナッシング思考(全か無か思考)」に陥りやすいのです。
そこで重要になるのが、「完璧でなくても良い」という考え方を取り入れ、実践のハードルを意図的に下げる戦略です。
感謝習慣のハードルを下げる具体的な戦略
感謝の習慣を継続するために、以下のような「ハードル下げ」戦略を試してみてはいかがでしょうか。
1. 量ではなく「質」に焦点を当てる、あるいは「最小限」に留める
毎日たくさんの感謝を見つけようとするのではなく、「今日一つだけ、心から感謝できることを見つける」というように量を減らします。あるいは、「〜してくれた」という単純な事実の羅列でも構いません。「感謝の気持ちを言葉にする(書く・唱える)という行動」そのものに焦点を当てます。
- 実践例:
- 感謝ノートに書く場合、「今日あった感謝できる良いこと:コーヒーが美味しかった」のように、簡潔に一つだけ書く。
- 心の中で感謝する場合、移動中などに「今日のランチを作ってくれた人、ありがとう」と心の中で一言思うだけにする。
この方法は、スモールステップの原則に基づいています。非常に小さな一歩から始めることで、抵抗感を減らし、行動を開始しやすくします。成功体験を積み重ねることで、自己効力感も高まります。
2. 時間を極限まで短く設定する
感謝の習慣に費やす時間を最小限に設定します。例えば「1分だけ」と決め、その時間内でできることだけを行います。
- 実践例:
- タイマーを1分にセットし、その間に思いついた感謝を頭に浮かべるか、箇条書きで書き出す。
- 歯磨きをしている間、通勤中の信号待ちの間など、特定の短い時間と関連付ける。
「これだけならできる」と感じられる最小単位から始めることで、忙しい日でも中断しにくくなります。
3. 頻度を調整する:毎日ではなく「週に数回」から始める
必ずしも毎日行う必要はありません。週に2~3回など、無理のない頻度で始めることも有効です。特定の曜日に設定する、あるいは「週末の振り返り」としてまとめて行うなども良いでしょう。
- 実践例:
- 毎週日曜日の夜に、その週にあった感謝できる出来事を3つ思い出す時間を作る。
- 「水曜日と土曜日の夜」のように、特定の曜日を決めて感謝の記録をつける。
毎日行うという固定観念を手放すことで、精神的な負担が軽減されます。
4. 記録方法を簡略化する
感謝を記録する場合、丁寧に文章を書こうとすると億劫になることがあります。記録方法を徹底的に簡略化します。
- 実践例:
- ノートに「〇〇さんに感謝」「△△ができた」のように単語や短いフレーズだけを書き出す。
- スマートフォンのメモアプリや特定の感謝アプリを使用し、定型文やスタンプで記録する。
- 音声入力機能を使って、声で記録を残す。
記録すること自体のハードルが下がれば、行動を継続しやすくなります。「完了」という小さな達成感を積み重ねることが重要です。
5. 特定の「ゆるい」トリガーと連携させる
特定の行動や状況を「感謝を思い出すトリガー」としますが、その関連性を厳格にしすぎず、「ゆるい」連携にします。
- 実践例:
- 「コーヒーを淹れる時、何か一つ感謝することを考える」
- 「通勤電車に乗ったら、何か良い出来事を思い出す」
- スマートフォンのリマインダー機能を活用し、毎日同じ時間に通知を受け取る。「感謝の時間」という短いメッセージだけでも、行動を促すトリガーになります。
特定のトリガーは習慣化に有効ですが、「食後には必ず」のように厳密に決めすぎると、それができない状況で挫折しやすくなります。「この状況になったら、できればやってみよう」くらいの柔軟な考え方が、継続には役立ちます。
6. 成果に対する期待値を下げる
感謝の習慣を始めたからといって、すぐに人生が劇的に変わるわけではありません。目に見える大きな効果をすぐに期待しすぎず、「続けること自体に価値がある」と考えるようにします。
- 実践例:
- 感謝の記録を見返した際に、「こんな小さな良いこともあったな」と気づくこと自体を成果とする。
- 気分が少しだけ和らいだ、といった些細な変化を捉えるように意識する。
大きな期待は、それが満たされない場合に失望につながりやすいものです。小さな変化や、行動できたこと自体を評価することで、モチベーションを維持しやすくなります。
継続の壁を乗り越える工夫
ハードルを下げて始めても、忘れてしまったり、面倒に感じたりすることはあるものです。
- リマインダーの活用: スマートフォンのアラームや特定のアプリの通知機能を活用し、「感謝の時間」として知らせる設定は非常に有効です。
- 記録の「見える化」の工夫: 記録そのものを簡略化しつつ、記録した回数や期間が分かるようにすることで、「これだけ続けられた」という達成感を視覚的に得られます。特定のアプリは継続日数をカウントする機能を持っています。
- 他の習慣との柔軟な連携: 既に確立されている習慣(例: 寝る前、朝起きた後)とゆるやかに連携させることで、感謝習慣を既存のルーティンの中に自然に組み込みやすくなります。ただし、前述のように厳密にしすぎないことがポイントです。
- 「できなかった日」を責めない: 完璧主義を手放す最も重要な点は、できなかった日があっても気にしないことです。「今日はできなかったけれど、明日またやってみよう」と軽く受け流し、すぐに再開することを目指します。継続は「途切れずに続けること」ではなく、「途切れてもまた始めること」の繰り返しです。
まとめ:完璧でなくても、小さく続けることの価値
感謝の習慣を身につけたいという願いは素晴らしいものです。しかし、その過程で「完璧にやらなければ」という考えが、継続の足かせになることがあります。
今回ご紹介した「ハードル下げ」戦略は、感謝の実践を「簡単すぎる」と感じられるレベルまで落とし込み、行動への抵抗感を減らすことを目的としています。量や頻度、記録方法を簡略化し、期待値を下げることで、挫折しにくい「ゆるやかな」継続を目指します。
重要なのは、一度始めて完全に習慣化するまで止まらないことではなく、たとえ途切れても「また始める」ことを繰り返すことです。完璧な感謝習慣など存在しません。小さくても、不完全でも、感謝の気持ちに意識を向ける時間を持つこと自体が、少しずつ私たちの心に良い変化をもたらしてくれるはずです。
今日から一つだけ、あなたが「これならできる」と思える最もハードルの低い方法で、感謝を実践してみてはいかがでしょうか。