感謝習慣、飽きずに続ける「脳の仕組み」と変化を取り入れる実践法
感謝の習慣を始め、しばらくは新鮮な気持ちで続けられるかもしれません。しかし、日が経つにつれて「義務感」が生まれたり、いつも同じような内容になったりして、「飽き」や「マンネリ」を感じるようになることは珍しくありません。これは、感謝の習慣に限らず、新しい習慣を身につけようとする際に多くの人が直面する課題です。
なぜ私たちは、一度始めた良い習慣でも飽きを感じてしまうのでしょうか。そして、この「飽き」とどのように向き合い、感謝の習慣を無理なく、しかし継続して深めていくことができるのでしょうか。
この記事では、感謝の習慣がマンネリ化しやすい背景にある脳の仕組みに触れながら、その課題を乗り越え、飽きずに感謝を続けるための具体的な「変化」を取り入れる実践法や工夫をご紹介します。単なる精神論ではなく、今日からすぐに試せる具体的なアプローチを通じて、あなたの感謝習慣がより豊かで継続可能なものになるヒントを見つけていただけたら幸いです。
感謝習慣に「飽き」が生じる背景:脳の仕組みと習慣化のワナ
人間は、繰り返し行う行動を自動化する脳の仕組みを持っています。これにより、いちいち意識せずとも効率的に日常生活を送ることができます。感謝の習慣も、この仕組みによって定着すれば、意識的な努力が少なくても実践できるようになります。
しかし、この習慣化のプロセスには、一つの「ワナ」が存在します。行動が自動化され、当たり前になるにつれて、その行動に伴う新鮮さや強い感情的な反応が薄れていくのです。私たちの脳は、新しい情報や予期せぬ出来事に強く反応し、注意を向けやすい性質があります。これは、生存に必要な情報を効率的に処理するための仕組みです。一方、慣れ親しんだ繰り返しには、脳の注意が向きにくくなります。
感謝の習慣においても、毎日同じ時間に、同じ場所で、同じように感謝の対象を書き出すといったパターンを繰り返していると、脳がそれを「新しい刺激」として認識しにくくなり、新鮮さや発見の喜びを感じにくくなることがあります。これは、習慣化が成功したからこそ生じる、ある意味で自然な現象です。この状態が続くと、実践への意欲が低下し、「飽きた」「面倒だ」と感じるようになり、習慣が途切れやすくなります。
飽きへの具体的な対策:感謝習慣に「変化」を取り入れる実践法
感謝習慣における「飽き」は、意志力の問題ではなく、脳の自然な働きによる側面が大きいことを理解することは重要です。そして、この課題に対処するための鍵は、感謝の実践に意識的に「変化」や「新しい刺激」を取り入れることにあります。ここでは、具体的な実践法をいくつかご紹介します。
1. 感謝の「対象」を意識的に多様化する
私たちはつい、身近な人や大きな出来事への感謝に目が行きがちです。しかし、感謝の対象を意図的に広げ、普段意識しないものに目を向けることで、新鮮な発見が生まれます。
- 具体的なアプローチ例:
- 五感に意識を向ける: 今日の食事の味、心地よい音楽、美しい景色、快適な衣服の感触など、五感で感じたことに感謝する。
- 日常の「当たり前」を疑う: 電気が使えること、水道水が出ること、安全に歩ける道など、普段意識しないインフラや環境に感謝する。
- 過去の自分に感謝する: 過去の努力、困難を乗り越えた経験、当時の選択に感謝する。
- 困難な状況の中に小さな光を見つける: 課題がある中でも助けてくれた人、学ぶことができた点、自身の成長の機会に感謝する。
- 「〜がないこと」に感謝する: 怪我をしていないこと、大きな病気をしていないこと、トラブルが起こっていないことなど、ネガティブな出来事がない状態に感謝する。
感謝の対象を様々に変化させることは、脳に新しい情報を提供し、感謝の実践を単なる繰り返しから「発見の旅」へと変える効果があります。
2. 感謝の「実践方法」を変えてみる
感謝を表現したり記録したりする方法も、一つにこだわる必要はありません。方法を変えることで、気分転換になり、新たな視点が生まれることもあります。
- 具体的なアプローチ例:
- 書く以外の方法: 心の中で唱える、声に出して言う、感謝したい相手にメッセージを送る(伝えられる場合)、絵やイラストで表現する。
- 記録方法のバリエーション:
- 箇条書きだけでなく、短いエッセイのように具体的に描写してみる。
- 感謝の対象と、それによって自分がどう感じたかをセットで記録する。
- ポジティブな面に焦点を当てるだけでなく、困難な出来事から学んだこと、成長の機会となったことに感謝する視点も加える。
- スマートフォンのメモアプリや特定の感謝習慣アプリ、物理的なノートなど、ツールを変えてみる。
- 記録媒体の工夫: 見開きで一週間分を書き出す、付箋に一つずつ書いて壁に貼るなど、記録媒体やフォーマットを変えてみる。
実践方法を変えることで、脳への刺激が変わり、新鮮な気持ちで取り組むことができます。また、異なる方法が、その日の気分や状況に合っていると感じられる場合もあります。
3. 感謝の「タイミングや場所」を調整する
いつも同じ時間、同じ場所で感謝の実践を行っている場合、それを少し変えてみるだけでも、マンネリ感を軽減できることがあります。
- 具体的なアプローチ例:
- 実践時間の変更: 朝のルーティンに取り入れているなら、寝る前に変えてみる。または、移動時間や休憩時間など、日中の隙間時間を利用する。
- 実践場所の変更: 自宅だけでなく、通勤中の電車の中、職場のデスク、お気に入りのカフェ、公園のベンチなど、場所を変えてみる。
- 特定の行動と紐づける(アンカリング/習慣スタッキングの応用): コーヒーを入れている間、歯磨きの直後、ランチを食べる前など、既存の習慣とセットにするタイミングを変えてみる。
時間や場所を変えることで、感謝の実践が日常の別の文脈に組み込まれ、新鮮な感覚で取り組める可能性があります。
4. 感謝の実践に「ゲーム性」を取り入れる
継続を促すための工夫として、「ゲーム化」の要素を取り入れることも有効です。これは、自己効力感を高めたり、達成感を得たりするのに役立ちます。
- 具体的なアプローチ例:
- 小さな目標設定: 「今週は毎日3つの感謝を見つける」「新しい対象(例:自然、音楽)への感謝を5つ見つける」など、具体的な目標を設定する。
- 記録の可視化: 感謝した項目数や継続日数をグラフにしたり、スタンプを貯めたりして、成果を「見える化」する。
- テーマを設定した感謝探し: 週ごとに「今日の発見」「人との繋がり」「身体への感謝」などテーマを決めて、それに沿った感謝を探す。
- 感謝ビンゴ: あらかじめ様々な感謝の対象をリストアップし、ビンゴ形式で埋めていく。
ゲーム感覚で取り組むことで、感謝の実践が「やらなければならないこと」から「楽しんで取り組むこと」へと変化し、モチベーションの維持につながります。
5. 感謝の「振り返り」に変化をつける
感謝の実践そのものだけでなく、定期的な「振り返り」の方法に変化をつけることも有効です。これにより、自身の感謝の傾向や変化に気づき、新たな発見を得られます。
- 具体的なアプローチ例:
- 毎日ではなく、週に一度、月に一度など、まとめて振り返る時間を持つ。
- 過去の感謝リストを読み返し、どのようなことに感謝していたか、そしてその内容がどのように変化してきたかを見る。
- 記録した感謝の言葉の中から、特に心に残ったものや意外だったものをピックアップしてみる。
- 親しい友人や家族に、最近感謝したことについて話してみる(相互作用による刺激)。
振り返りに変化をつけることで、感謝の実践が単なる記録行為に留まらず、自己理解を深めたり、新たな視点を得たりする機会となります。
変化を取り入れる上での「無理なく」のポイント
これらの「変化」を取り入れる実践法を試す上で大切なのは、「無理なく」行うことです。
- 全てを一度に変えない: いくつかの方法を試してみて、自分に合うもの、その時の気分に合うものを取り入れる。
- 完璧を目指さない: 「飽きた」と感じたら、それは変化が必要だというサインと捉え、自分を責めずに柔軟に対応する。
- 変化そのものを楽しむ: 新しい方法を試すプロセスそのものを、発見や遊びのように捉える姿勢を持つ。
習慣化の初期には定型化が有効な場合が多いですが、ある程度定着した段階でマンネリを感じ始めたら、今回ご紹介したような「変化」を意識的に取り入れてみてください。
結論
感謝の習慣における「飽き」や「マンネリ」は、習慣化の過程で多くの人が経験する自然なことです。これは、あなたの意志が弱いからでも、感謝の習慣が無意味だからでもありません。脳が効率化を図ろうとする自然な働きの一側面です。
この課題を乗り越え、感謝の習慣を無理なく、かつ継続して深めるためには、脳に新しい刺激を与え、飽きさせない工夫が必要です。感謝の「対象」「実践方法」「タイミングや場所」「ゲーム性」、そして「振り返り」に意識的に「変化」を取り入れることは、そのための有効な手段です。
今回ご紹介した様々なアプローチの中から、ピンとくるもの、試してみたいと感じるものを選んで、まずは小さな一歩から試してみてください。変化を取り入れながら感謝を続けることは、単に習慣を維持するだけでなく、感謝の対象や方法を常に探求し、より深く、より豊かな感謝体験を得ることにつながります。そして、その積み重ねが、あなたの日常生活に無理なく溶け込み、ポジティブな変化をもたらすはずです。